「OSAKINI プロジェクト」2021年度事業の報告会を実施しました(後編)

報告会

前編の記事はこちら:「OSAKINI プロジェクト」2021年度事業の報告会を実施しました(前編)

第2部:大崎リサイクルシステムを環境・経済・社会の観点から評価する

第2部では、研究者による研究報告セッションとしてサーキュラーヴィレッジラボ所長・大岩根尚より、ラボの意義や研究内容ついて説明しました。

サーキュラーヴィレッジラボの役割は大きく3つです。

一つ目は「より環境負荷の低い廃棄物処理の探求」です。例えば、生ごみを堆肥化している大崎町ですが「焼却した方が本当は環境負荷も低い場合があるのでは?」という問いに対して科学的な知見をもって答えていくといった取り組みです。この研究は、国立環境研究所主任研究員の河井紘輔先生と共に進めています。

二つ目は、「企業との商品開発と地域実装」です。大崎町のリサイクルの取り組みを通じて、リサイクルされることを前提に作られていない商品が世の中には多いことがわかってきました。大崎町だけでは、商品そのものを変えることはできません。商品を作る企業との連携も必要であると考えています。そこで、青木志保子先生らと共にLCA(*1)を考慮に入れた環境負荷の低い商品開発を準備しています。

(*1)ライフサイクルアセスメント。商品やサービスを製造するにあたり、資源の採取から生産、製造、流通、販売、消費、廃棄もしくはリサイクルするまでの流れの中における環境負荷を定量的に評価する手法

そして三つ目は「他地域への展開」です。探求と商品開発、実装によって客観的な証拠を揃え、大崎町のリサイクルの仕組みを全国の他の自治体や地域が導入するサポートを行っていきます。

なぜ小さな自治体が、わざわざ研究活動まで実施するのか。

世界の平均気温が激変する中で、どれだけの自然災害が引き起こされているのかをデータから紹介し、その原因の一端が私たち消費者にあることと、だからこそ消費者から変えていこうというのが、大崎町の取り組みであるとお話いただきました。

さらに、大岩根所長は大崎町の可能性として、ごみの分別が住民に浸透し、根付くような仕組みを住民主体で構築してきたまちの方々の熱量にもふれました。このようなあり方が、世界の未来につながっていることを知る住民がいることに、思わず涙ぐむ場面もありました。大崎町に可能性を感じ、このような地域が広がることを切に願っていることが伝わってきた場面でした。

次に、国立環境研究所の河井先生から今年度実施していただいた大崎リサイクルシステムの環境負荷に関する研究についてご説明いただきました。目的は「他の自治体のごみ処理と比べて異なる点を明確化すること」と、「他の自治体が大崎町システムを導入できる可能性を探ること」です。

調査の結果わかったことは、いくつかあります。一つは、ごみを焼却処分している自治体と大崎町を比較した場合、主だったごみの排出量がそもそも少ないことです。

また、ごみを焼却処分している自治体と大崎町とでごみ処理におけるGHG(温室効果ガス)排出量の評価を行ったところ、焼却自治体では、年間1人あたり104kgのGHGが排出されているのに対し、大崎町では年間1人あたり64kgで、38.5%の削減となっていました。

つまり、大崎町のリサイクルの取り組みが、GHG排出量という面で確実に環境負荷を下げていることが明らかになったのです。なお、この数値は暫定的なデータのため、今後も視点を変えながら調査・研究を続けていきます。

今後の展望として、埋立されている紙類や紙おむつからメタンガスが発生していることから、それらを埋立とは違う形で処理する方法を考えていくことが挙げられました。他自治体にとっても、生ごみのような”湿りごみ”の分別が促進されれば、紙類やプラスチック類などの”乾きごみ”の分別が容易になることなどをお話をいただきました。

次にLCAを専門に研究されているWholeness labの青木先生より、今後実施していこうとしているLCA研究についてお話しいただきました。

そもそも”サステナブル”とはどういう状態を指すのか、という問いに答えうるのが、環境負荷を定量化する≒LCA(Life Cycle Assessment)という評価です。製品やサービスを原材料採取から、材料入手、製品製造、輸送、使用、廃棄、リサイクルに至るまで、すべてのライフステージを範囲として環境負荷及び影響の観点から定量的に評価する手法です。

実例として、飲料パックメーカーであるTetra Pak様が、紙ストローとプラスチックストローを対象にLCA評価をおこなったグラフを示し、紙ストローがすべての環境負荷を軽減できるわけではないということをご説明いただきました。その上で、LCAで評価してから製品を展開していくという流れが今後増えていくのではないかという展望と、大崎町でその流れの最先端を作っていきたいという呼びかけがありました。

青木さんは、大崎町で企業と「環境負荷の低いサービス」を共同研究するにあたり、具体的に思い描いている6つのステップについてお話いただきました。目的に応じた調査範囲の設定から、現在の製品やサービスについて全てのプロセスでの必要なデータ収集や計算(文献及び現地調査)、そして評価をした後に比較検証を行うというステップです。

一つ意外だったことは、LCA評価によって本当に環境負荷の低い製品ができれば、その商品だけを普及させていくのではなく、あくまで現在の商品も汎用バージョンとして残しても良いのではないか、と伝えられたことでした。いま受け入れられているものを急に変えることの難しさや、緊急時には役に立つ使い捨て商品などがあります。社会の効用の最大化という観点に立つと、製品の多様性を持つことが重要だと考えているそうです。LCAだけでなく複合的な視点で判断していくことの大事さに改めて気付かされました。

最後に、青木さんからは「ぜひ企業のみなさん、一緒に研究しましょう」という明快なメッセージが伝えられ、その後は研究者3名によるトークセッションが行われました。

盛り上がりを見せたチャットのコメントを拾いつつ、例えば河井先生の研究で「生ごみを分別している自治体のうち、8割が人口3万人以下であるという結果はなぜなのか?」といった疑問に答えていきました。

青木さんのお話の中で、システムに飲み込まれることで、個人の意志では行動変容が難しいという生活実感から、将来的に資源循環に経済的価値が組み込まれるシステムが作られることが大切とおっしゃっていたことが、とても印象に残りました。

そして最後に、大岩根所長から、そういった経済・社会面での実験も大崎町で行われていったら面白いのではないかという展望も語られました。

第3部:民間企業と「OSAKINIプロジェクト」の関わりしろ

協議会事務局・西塔の進行のもと、企業版ふるさと納税を通じて活動にご支援いただいているヤフー株式会社のから長谷川琢也さん、そして連携プロジェクトを共に推進するユニ・チャーム株式会社からの織田大詩さんにご登壇いただきました。

まずヤフー株式会社の長谷川さんからは「企業版ふるさと納税を活用した脱炭素社会の推進」と題して、自社のカーボンニュートラル推進だけでなく、寄付を通じて脱炭素に向けた社会全体の取り組みを推進していることと、その一環として企業版ふるさと納税の公募を2021年4月から始めたことをご説明いただきました。

脱炭素に対する直接的なインパクトがあるか、独自性・地域性があるか、横展開が可能なモデルとなりうるかの3点を主な評価ポイントとした上で、2021年度は全体で約3億円を寄付。大崎町には「リサイクル率No1の大崎システムの横展開」として約4,600万円寄付いただきました。

寄付の募集選考にあたり、大崎町に寄付してもカーボンネガティブ(*2)には繋がらないのではないか、という議論が社内で巻き起こったそうですが、リサイクルシステムが大崎町以外に展開することのインパクトや効果は大きいのではないかという期待から、結果的に寄付を決めたとのことでした。

話の結びとして、企業版ふるさと納税をすることが、企業にとってどんなメリットがあるのかという話の中で、協働プロジェクトとしてビジネス開発に繋がる可能性を示していただきました。

(*2)カーボンネガティブとはCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量が、吸収されるC量より多い状態のこと

次に、織田さんより、大崎町とユニ・チャーム様が具体的にどんな連携プロジェクトを推進しているかご説明いただきました。

高齢化社会に伴い大人用の紙おむつが増えていくことや、一般廃棄物排出量に占める紙おむつが、現在の約5%から2030年には7%以上に増えていくことが予想されています。現在紙おむつに使用されているパルプをオゾン処理することによって、おむつからおむつへの水平リサイクルに挑戦していることをお話いただきました。

大崎町の埋立ごみの約2割から3割は紙おむつです。日本一のリサイクル率である大崎町で、もし紙おむつのリサイクルが実現すれば、さらにリサイクル率が高まることになります。

大崎町では、開発事業だけでなく、紙おむつを中心としたリサイクル品の実用化や普及啓発を、行政と企業、そして協議会が連携して進めていきます。

大崎町に関わる企業のお二方を迎えたセッションでは、大崎町が他の自治体と違っている点として、リサイクルの取り組みが浸透していることと、民間企業が参加しやすい関わりしろがある点の2つが話に挙がりました。

1点目は、紙おむつをリサイクルするためには、使用済み紙おむつだけを分別回収する必要があり、そのための仕組みが導入しやすいという点で、連携に適した自治体だったこと。

2点目は、20年前から本質的な課題に向き合い、解決する方法を考え続けてきたことでリサイクル率日本一という結果まで出したことで、企業側としても連携しやすい存在感を持っているということ。

企業の視点を通して、大崎町が実証実験や連携に適した場であることを改めて再認識する時間となりました。

第4部:「OSAKINI プロジェクト」に関わってくださる8つの企業・団体の方々のショートプレゼンを実施

第4部では協議会と関わりのある企業様からの短いプレゼンテーションと交流会を実施しました。

8つのショートプレゼンのうち、宮崎大学の土屋研究室との連携プロジェクトのルームでは、土屋有先生から話題提供をいただきました。

このプロジェクトは、大崎町民は環境配慮型の購買行動が多いのではないかという仮説に基づいてどのような研究をすることができそうか対話をしました。もし仮説が正しいとすると、大崎町は日本の中で環境配慮型商品のマーケティング調査に適した地域であるといえるのではないかというアイディアが生まれました。

交流会では「例えば、納豆パックは充填が容易で単価が安い。しかし、リサイクルのために容器を洗ってから処分する大崎町民にとっては、納豆パックは洗いにくい」という実態が話されました。逆に洗浄が容易でリサイクルしやすいパッケージで、その分値段が高い商品が発売されたときに、大崎町民はどれくらいその商品を購入するのか、ということが疑問として上がり、経済合理性と環境配慮の両方をどう満たしていくのか議論になりました。

消費者がリサイクルや環境配慮を自分ごと化していくための経済的なインセンティブをどう作っていくのかというテーマと感じ、今後協議会が取り組んでいく事業のヒントとなりました。

最後に、大崎町SDGs推進協議会の代表である千歳史郎代表理事よりご挨拶申し上げ、会の締めとなりました。閉会後は、みんなでOSAKINIポーズをして記念写真撮影。

3時間半の長時間にわたるイベントではありましたが、最後まで多くの方にご参加いただき、本当にありがとうございました。

(文・企業連携担当 井上雄大)

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