町内の小学校の先生方の思いから始まった大崎町の取り組みについて学ぶ授業作り – 施設見学編 –
「リサイクル率日本一の大崎町の子どもたちに、自信を持ってもらいたい」。2021年度に町内の菱田小学校の福森校長先生から相談をいただき、昨年度から菱田小学校の先生方と一緒に、大崎町のリサイクルについて学ぶ授業作りが始まりました。
その土台として、まずは大崎町の歴史と取り組みを学ぶために、どのような内容の授業にすべきか、何を学ぶべきか先生方と検討を重ねし、6月に2回の授業を実施。子どもたちが自ら学ぶ機会を提供しました。
大崎町の先進的な取り組みについて学んでほしい
昨年度、菱田小学校の校長先生である福森先生から、あるご相談がありました。「総合の時間を活用して、SDGsの17のゴールのいくつかに当てはまる、大崎のリサイクルの取り組みについて学ぶ機会をつくりたい。子どもたちが自主的に学ぶために、協議会と何かできないか」という内容でした。
福森先生のご依頼の背景には、探求学習をするにあたって、子どもたちの多種多様な疑問にできるだけ答えたいという想いがありました。
例えば、リサイクルについて学ぶ子どもたちが持つ疑問のうち、大崎町の仕組みそのものに関する質問などには、学校の先生だけでは答えられない部分があります。その際、関連する施設・役場・協議会などに、子どもたちが直接話を聞けるような環境を作りたいとお話いただきました。
また、大崎町のリサイクルについて学びの機会を設けたいと考えている、もう一つの理由は、子どもたちにもっと自信を持って欲しいという想いがありました。
以前から自分に自信のない子どもたちが多いと、一部の先生方は感じていらっしゃったそうです。
「自分の住んでいる町が環境面で評価を得ていることを学び、住んでいる町を好きになることが、自分に自信を持つきっかけにならないだろうか。また、関心のあることについて調べてまとめあげる探求型のプロセスにより、やり遂げることができれば、子どもたちの自信につながるのでは」と、お話いただきました。
そこで、普段家や学校で分別をしている子どもたちが、どのくらいリサイクルについて知っているのか、先生方から子どもたちに直接聞いてみたところ、実はそんなに知らないということがわかりました。
分別の数やリサイクルしたことで生まれてきた製品などについても、ほとんどの生徒が知らなかったようです。
大崎町のリサイクルシステムを学ぶ授業と見学を2回に分けて実施
そこで、子どもたちに体験を通して学んでもらうべく、リサイクルに関連する施設に見学に行くことにしました。
施設見学に行く前の、初回の授業では、次の3つのことについて考えてもらえるよう、設計しました。
- 大崎町がリサイクル率日本一の理由
- リサイクルを始めた理由
- 大崎リサイクルシステムはどうやって成り立っているのか
行政の方や企業の方々向けの視察や研修では、施設を案内しながらこれらについて説明をします。しかし、今回は、住民である子どもたちが、自分の住む町について学べるよう、一方的に説明を聞くのではなく、子どもたち自身で考えてもらえる時間を設けました。
1回目の授業では大崎リサイクルシステムの原点を学ぶ
初回の授業は、45分の1限のみ。冒頭では「大崎町のリサイクルは他のまちと何が違うんだろう?」という質問に、グループで答えてもらいました。子どもたちはそれぞれ知恵を絞り、想像力を膨らませながらたくさんのアイデアを出してくれました。
他の町との違いに対する模範解答は「ごみを燃やしていないこと」でしたが、子どもたちからはさまざまな意見が出ました。
お互いの意見を共有したあと「ごみを燃やさないのは、大崎町には焼却炉がないから」という背景を解説し、大崎町のごみ処理の特徴について理解を深めました。
2回目の授業では事前学習に加え施設見学へ
2回目の授業は、午前中の2限分の時間を使って実施しました。まずは1回目の授業をおさらいして「焼却炉をなぜ作らなかったのか」、つまり「大崎町がリサイクルを始めた理由」について考えてもらうところからスタート。
まだリサイクルを始める前の、約20年前の町の状況を説明し、当時の住民になりきって、自分たちだったらどんな選択肢を取るか、考えてもらいました。
そして最後に、大崎町のシステムがどうやって成り立っているのか、施設見学で学んでもらえるよう、いくつか見学時のお題を出しました。
子どもたちにはリサイクル探偵団になりきってもらい、いろんな答えやヒントを探してもらいます。
これらをメモしてもらい、埋立処分場と、生ごみと草木を堆肥化している有機工場の2つの施設に見学に行きました。
埋立処分場では、高さ約3mのごみの壁に圧倒された様子の子どもたちでしたが、次第にごみに近づき、iPadを片手に写真や動画を撮りながら、気になったところを協議会スタッフに質問。一番多く出た疑問が「地面の下はどうなっているのか」というもの。下には30mほどごみが埋まっていると聞き、とても驚いた様子でした。
続いては有機工場の見学。
ここでは、あらかじめクイズを出していたので、その答えを一生懸命探していました。
生ごみの発酵臭に耐えながら、自然の力だけで生ごみが分解されていることを知り、驚いていました。自分たちが食べ残したものが活用されている、「域内循環」を目の当たりにしました。
子どもたちは、搬入された草木をチップに砕く大きな重機たちにも興味津々でした。
2つの施設見学を通し、探偵団として大崎町のリサイクルについてたくさんの発見を持ち帰ってくれたようです。
先生方の感想
今回、5、6年生の担任の先生、補助の先生、そして校長先生にも同行していただきました。
授業や見学を通し、普段発言しない生徒が自ら発表していたり、興味津々で調べ回る子どもたちの様子を見て、改めて大崎町のことについて学んでもらってよかったと感じられたそうです。
また、一部の先生方は大崎町外に住んでいるため、先生方にとっても見学は新鮮だったようでした。
授業での印象的な子どもたちの言葉
今回の授業と見学を通して、子どもたちに町の取り組みについて学んでもらうことの必要性を改めて強く感じました。同時に、先生方と我々が協力することで、子どもたちにより多くの機会を与えられるということに、大きな可能性を感じました。
また印象的なシーンの一つとして、心に残っている生徒の言葉があります。
授業で「大崎町が今の分別方法を選択した理由は、あなたたちのためだよ」と説明をしたことがありました。もちろん他にも理由はありますが、焼却炉を作らなかった大きな理由の一つに、後世に維持費を負担させてはいけないという強い想いがあります。
その説明を受けた上で、施設見学をしている際に、ある生徒が「どうしてここにはお金をかけない工夫をしてあるの?」と質問をしてくれました。そこで私が説明をしようとすると、すかさず「あ、そっか、僕たちのためだよね」と自分で答えたのです。
費用をかけない理由は他にもありますが、ごみを処理する費用は住民の負担(税金)からまかなわれていること、過去の行政や住民がそれを配慮したからこそ今のシステムが成り立っているということを、子どもたちは、しっかり理解してくれています。
私自身、授業を通じた大人の発言を、子どもたちはしっかり記憶していることや自分なりに吸収していることを改めて実感し、より自分の言動に責任を感じ、身が引き締まりました。
今後プロジェクトの流れ
施設見学を通じた、大崎リサイクルシステムを学ぶ2回の授業は終了しました。この後は、子どもたちがそれぞれ興味関心を持ったテーマを探求し、最終的には第3者に向けて発表することを予定しています。
引き続き、子どもたちの興味の種がしっかり芽を出して、花開いて実をつけるまで、環境を整えながら先生方と一緒にサポートしていきます。
(文・人材育成担当 森川和花)