生産現場の農業体験から食品ロスを学ぶ「おすそわけツーリズム」を実施しました
大崎町SDGs推進協議会は、フードシェアリングアプリ「TABETE」を制作・展開し、主にレストランやパン屋など店舗でのフードロスを減らす活動を行っている株式会社コークッキング(以下コークッキング)と、大崎町の3者で協働し、「おすそわけツーリズム」というイベントを実施しました。
- 一般社団法人大崎町SDGs推進協議会が「おすそわけツーリズム」(主催:株式会社コークッキング)の第一回実証実験に協力。11/6〜11/7に鹿児島県大崎町で検証し食品ロス削減や域内循環の可能性を探る|PR TIMES
日本の食品ロスと生産者とのつながりを作る理由
「食品ロス」とは、捨てられる食べ物のうち、まだ問題なく安全に食べられるものを指します(*1)。日本国内での食品ロスは、年間約570万トンといわれており、その中でも家庭での食品ロスは276万トンにも及びます(*2)。国民1人あたり1日におにぎり1つ分ほどの食品を廃棄してしまっているのが、日本の現状です。
スーパーに行けば、あたりまえに沢山の食材や食品が並ぶ今、生産者と野菜を食べる生活者との距離ができ、生産者に思いを馳せることなく食事をしてしまっている事が、食品ロスを生む要因の1つかもしれません。
(*1)農林水産省ウェブサイト参照
そこで今回は、大崎町内の3つの農家さんにご協力を依頼。実際に収穫体験をしたり、選果場や堆肥工場の見学をしたりしながら、農家さんの野菜作りへの想いや苦悩を伺い、生産者と生活者の距離を縮め、食品ロスについて学ぶ機会として「おすそわけツーリズム」を実施しました。
「おすそわけツーリズム」とは、生産現場で採れすぎてしまった、または規格外で市場に卸せないような農産物等を消費者に届ける仕組みづくりを最終目標として、生産者がフードシェアリングサービス「TABETE」に出品し、地元住民が直接生産現場へ訪問して購入する(おすそわけを受け取る)取り組みです。
また、市場に出せない規格外野菜がある現状を参加者に知ってもらうことで、食品ロスについて考える機会となりました。
生産者とのコミュニケーションを通じて食について考える
今回の「おすそわけツーリズム」では実証実験として、「大崎農園」さん、「トモタカファーム」さん、「ななくさ農園」さんの3つの農家さんにご協力頂き、11月6(土)、7日(日)の2日間の日程で開催。
それぞれまったく違ったスタイルで農業をされており、得られる学びにも違いがありました。
大崎農園さん – 大規模農業で効率的な農業 –
1日目の11月6日(土)の午後の部から参加者受け入れをしていただいた大崎農園さんでは、主に大根と小葱を生産しています。また、大根の選果や切り干し大根の加工も自社の工場で行っています。
この日はあいにくの雨で、大根農場に足を踏み入れる事ができませんでしたが、大崎農園代表取締役社長の山下義仁さんのご提案で、農場を見学するバスツアーをおこないました。
広大な土地に植えられた大根を、大きな機械で一気に収穫する様子を見て参加者から歓声が。収穫後の畑には販売するには小さすぎたり、形が悪かったりする大根が残っており、それらは土に返して肥料にするというお話もしていただきました。
次に、野菜出荷加工センターに移動し、工場内を見学しました。
小葱の出荷では、色が悪くなっているものや短いものははじかれ、鳥の餌になるとのこと。なるべく野菜を廃棄しない工夫もされていました。
最後に、選果された大根、加工された切り干し大根、出荷の規格に乗らないサツマイモのおすそわけを頂きました。
まだ問題なく食べられるサツマイモにもかかわらず、実は出荷されていないものもある現状を知り、参加者の野菜の選び方に対する考えにも、変化があったようでした。
トモタカファームさん – 少量多品種の野菜作り –
11月7日(日)の午前の部にご協力いただいたトモタカファームさんは、代表の関屋さんがおひとりで少量多品目で野菜を作っている農家さんです。
サツマイモなどの定番野菜からヨーロッパやアフリカ、アジアなど世界各地で食べられている、日本では珍しい野菜を、高級レストランやスーパーにおろしています。
今回は、規格外品のサツマイモ(シルクスイートと安納芋)のパッキング体験と、畑での大根間引き体験、さらに葉キャベツの収穫体験をさせて頂きました。
パッキング体験は、すでに収穫されたサツマイモが保管してある、関屋さんの事務所で実施。少し形の悪いものもありますが、味はまったく問題ありません。スーパーでは見かけない形の野菜を、子どもたちは楽しそうにパッキングしていました。
次に、トモタカファームさんの畑に移動。大人も子どもも、見たことのない野菜たちに興味津々。色とりどりの大根や葉物野菜の説明を受け、大根の間引き体験をしました。
間引きとは、1つの大根を大きく成長させるために不要な葉や根を抜く作業のこと。間引きした大根葉も食べられますが、通常なら捨ててしまうそうです。
間引きした大根を出荷したところで買ってくれる人も居なければ、コストも掛かってしまうという点で廃棄するのだとか。
何も知らなければ「もったい無い」と感じる農家さんの野菜の廃棄も、労力やコストを考えた上でやらざるを得ない背景があると分かりました。
ななくさ農園さん – 大崎リサイクルシステムを担う堆肥を活用 –
2日間にわたって協力していただいた、ななくさ農園さん。ここの特徴は何といっても、町内で出た生ごみや草木を発酵させてできた堆肥を活用して、無農薬野菜を作っているところ。大崎町では、各集落ごとに生ごみが回収され、リサイクルセンターに運ばれます。
ななくさ農園さんでは、生ごみが堆肥化され、野菜作りができる循環型農業の仕組みを学ぶことができます。
今回は、そおリサイクルセンター大崎有機工場の見学、にんじん畑の見学、ごぼうのパッキング体験を行いました。
大崎町での分別の果たす役割や、分別したごみがただ廃棄されるのではなく、どのように活用されるのかを感じることができました。
有機工場を見学した後は、畑で育てられたごぼうで作った、きんぴらごぼうとごぼうの酢和えを試食させて頂きました。生産者の方からお話を聞きながら食べるごぼうはいつもよりも特別で、参加者の方もおいしそうに試食していました。
ごぼうのパッキングでは、長いごぼうを自らの手でカットし、参加者自身で袋いっぱいにごぼうを詰め、おすそわけしていただきました。
各農家さんでの体験中、収穫方法のレクチャーや、参加者からの「年に何回収穫するのか」「畑に残った大根はどうなるのか」「おいしい野菜はどうやって見分けるのか」「おすすめの調理法は何か」などなど、質問がたくさん飛び交い、対話を交わす場面も見られました。
実際に生産者の方に会わないと聞くことができない話もできて、新たな発見も。
食に対する理解や生産現場のリアルを、生の声を通じて学び、食への意識を変えるきっかけにもなったようです。
参加者の声
参加者が、生産現場での見学や体験を通じて生産者とのつながりを感じ、生産現場や農家さんの想いを知ることができた「おすそわけツーリズム」。このイベントを通じて寄せられた参加者の方の感想・コメントを紹介します。
- 食に対する農家さんの取り組みを聞くのはすごく面白いし、ありがたみがわかるので食育の面からもいいと思います。それが、フードロスにつながるように年間を通したテーマごとの何回かの連続企画になるといいのかなと思ったりしました。(30代男性)
- 野菜嫌いの妻と息子が、ごぼうを食べることができました!(30代男性)
- いろいろな野菜を見られたり、収穫体験できて楽しかったです!(50代女性)
- 地域の方の取り組みを知れるいい機会。子どもたちへの教育としてもとてもいいと思う。(40代男性)
「食品ロス」を、それぞれの立場からどう捉えるか
今回のイベントを実施するにあたって、どのような内容にすれば、食品ロスに対する農家さんの想いや現場で起きているリアルな現状を参加者の方々に体感していただけるのか、プロジェクトメンバーで何度も議論しました。
実施する上で私たちが大切にしたことは「農家さんの言葉で飾らずに語ってもらう」ことでした。農業を経験したからこそ紡げる言葉を大切に、参加者と積極的に交流できる時間を設計。その結果、イベント時間中も気軽に質問を投げかける場を作れたと感じました。
観光資源として農業体験を提供するグリーンツーリズムとは少し異なり、生産現場を見て肌で感じ、直接生産者の方と対話をすることで、野菜を食べるときに農家さんの顔を思い浮かべ、生産地へ想いを馳せることを目指した「おすそわけツーリズム」。事後アンケートでも、いつもよりおいしく感じたという声が聞けて非常に嬉しかったです。
また、イベントの本来の目的であった「食品ロス削減」については新たな発見と次回への改善点が見られました。当初は、生産現場で生じるロスをなくそうと考えていましたが、農家さんとお話していく中で、生産過程で生じる食品ロスは、廃棄する方が経済的に効率が良いという事や、ロスも畑に戻し堆肥として循環させている事など、食品の生産現場だからこそ発生する要因や工夫があることを知りました。その背景として、綺麗な形や色のものを選ぶ日本の消費傾向があるそう。
今回のイベントでは、食品ロスの発生が市場経済に起因するという側面からのお話ができなかったと感じます。ひとえに「食品ロス削減のために生産者とイベント参加者との距離を近づける」だけではなく、食品ロスが出てしまうメカニズムや原因を、イベント参加者と共に考えられる内容にしていくことが今後の課題であると感じました。
また、子どもたちにもわかりやすく、食品ロスの現状や課題を伝えるための工夫がもっと必要だったという反省もあります。どうしても難しい言葉で説明してしまいがちですが、誰でも理解できるような説明で分かりやすく伝え、土を触りながら体験を通じた学びを得てもらえるようなプログラムにしたいと感じました。
(文・インターン 坂元美玲)